今回は「組織を支えるマネジメントと人材育成」をテーマに、現役マネージャーへのインタビューを実施しました。登場するのは、2022年にJストリームへ入社して、ネットワークインフラ部門の部長を務める奥田康司です。これまでのキャリア、標準化の本質、若手への期待 ── その一つひとつの言葉に、実践を重ねたマネージャーならではのリアリティが宿っています。「組織は人で成り立つ」ことを、改めて考えさせられるインタビューとなりました。
属人的ノウハウを、誰もが成長できるナレッジに
―― 最初に、ネットワークインフラ部の担当業務について、ご紹介をお願いします。
物理的なサーバやネットワーク、回線などのインフラに関わる企画・構築・維持・運用が主な業務となる部門です。Jストリームは、日本全国のISP・IDCに配信用サーバを分散配置し、大規模なコンテンツ配信ネットワークを自社構築しています。私は、ネットワークインフラ部門の責任者をしています。
―― Jストリームでの働き方や組織の雰囲気について、どのように感じていますか?
私の入社時は、10名ほどの組織でしたが、部内で誰がどんな業務をしているのかも分からない状態でした。ですが、タスクの棚卸しを抜本的に行ったことで、メンバーが何に取組んでいるかが可視化されるようになりました。個々が持っていた300〜400件もの業務を一つひとつ精査して、必要なもの、不要なものを整理するところから始めました。そして今では、誰が読んでも、誰がやっても対応できるような設計書や手順書づくりに注力しています。
もちろん最初は反発もあり、「文書化するよりも実機を見ればわかる」と食い下がる声も聞こえました。でも、誰でも対応できるようにしないと、再現性はなく、組織として成立しない。標準化の必要性を繰り返し伝え続けました。その後、「個々のスキルを上げれば文書化は必要ない」と主張していたメンバーが、評価の目標に「標準化」という言葉を入れてくれたことがありました。あの時は非常に嬉しかったですね。
―― マネジメント方針として大切にしていることはありますか?
Jストリームは、若手が活躍している組織で、大前提として、メンバーは皆素直。だからこそ、長期的に成長を見守ることが大切だと思います。着任当初は、私自身が現場に張り付き、データセンターにも同行して、作業の全てを見ていました。今になって振り返ると、そういった私の動きこそが“属人化”とも言えるのですが、その点を含めて、まさに今、そこからの脱却を図っているところです。現場を任せられるマネージャー層の厚みを増し、自分の業務を再現可能な手順に落とし込むことが、喫緊の課題だと思っています。

―― 具体的な育成施策についても教えてください。
施策は大きく2つあります。1つは、個別のキャリアアップ計画を作成すること。3年後に目指す姿を定め、1年目・2年目で何をやるかを明確にし、定期的に「ここはできたね」「ここはまだできていないね」と課題を潰していく仕組みです。
もう1つは、部署全体での「改善検討会」の実施です。月に1回開催して、数値をもとに課題を洗い出して、対策を検討しています。私たちは、問題を「プロセス(業務の進め方)」「ピープル(人の配置や心理的要因)」「プロダクト(使用しているツールやシステム)」という3つの視点=“3P”で捉えます。どの領域に課題があるのかを明確にすることで、最適な改善策を導き出せるようにしています。
―― 改善活動を続けた先に、どのような組織像を描いていますか?
理想は“完全自動化”です。作業依頼がきたらシステムが自動で動く、障害が起きたら自動で復旧する。2000年頃にIBMがWatsonで構想していたような世界観が、今でも本質的には未達成です。それを、当社で先んじて実現できたらと考えています。
―― 自動化が進んだ場合、組織や人の役割はどう変わっていくのでしょうか?
どれだけ自動化しても、最終的な判断や責任の所在は人間にあります。実行していいのか、どのコストを許容するのか、という意思決定には人の介在が不可欠です。無駄が減った分、その浮いた工数を“未来のチャレンジ”に充てたい。具体的なプランはこれからですが、目指す改善の先には、必ず新たな価値創出があると信じています。
企業の問題に真正面から向き合いたい ―― 道なき道を選び続けて、見えてきたもの
―― そんな未来を掲げる奥田さんは、どんな経歴なのでしょう。
Jストリームが8社目になります。新卒で広告代理店へ入社し、スニーカー好きが高じて飛び込んだアパレルメーカーでの店舗販売経験を経て、その後IT業界へ進みました。直近はIT系の事業会社で5年、その前は通信会社で9年勤めました。
―― 直近では、事業会社での経験が続いていますが、その背景をうかがえますか?
IT業界でのキャリアの出発点はSIerでした。その後、システム構築部隊に配属される予定が、当時の部長から「お前はコンサルティングを学んでこい」と言われ、コンサル部署に配属となりました。コンサル時代には、ある提案に対してお客様から「通り一遍すぎる」と厳しい指摘をいただき、自分の経験の浅さに気づきました。構築・運用・保守といった“システム実務の泥臭さ”を知らずにお客様へ提案していた自分自身に疑問を持ち、次は事業会社で経験を積みたいと思ったのです。
多くの企業が本当に困っているのは納品後の運用です。高コスト、障害、使いにくさ……。そういった数々の問題に正面から向き合いたいと思いました。

―― 通信キャリア系の企業では、どのようなことに取り組まれましたか?
モバイル広告配信などのシステム開発を担当しました。IT業界に踏み込む際に抱いた、「ネット広告に関わりたい」という希望を叶えることができ、幅広い経験を積むことができました。その後、「Webでどう儲けるか」、つまり物販をはじめとした、より“ビジネスの仕組み”に踏み込んでみたくなり、転職しました。転職先では、決済システムの開発に携わり、セキュリティや堅牢性が求められる現場で自分のスキルを広げることができました。
―― その後、Jストリームに入社されたきっかけは?
2022年の4月に入社しました。大きかったのは「これからは動画の時代になる」という確信と、これまで触れてこなかった大規模ネットワークへの興味です。現在は、ネットワークインフラ部門の部長を務め、組織基盤の整備を進めています。
振り返ってみると、「やってみたい」という気持ちに正直に従って重ねてきたキャリアだったかもしれません。でも、だからこそ多面的な視点と実践経験を積むことができ、今のマネジメントにも自信を持って臨めていると感じています。
組織マネジメントの中核は「標準化」
―― プロジェクトマネジメントと組織運営を専門にキャリアを積まれてきたとうかがいました。Jストリームでも、そうしたマネジメントの経験が活きているのですね。
そうですね。私のエンジニアとしてキャリアはSIerのみで、プロジェクトマネジメントと組織運営を専門にしてきました。
今のスタイルは、システムコンサルティング会社で学んだマネジメントの集大成だと思っています。そこで学んだのが、ITILに基づくPDCA型の改善活動。技術面よりも、人やプロセスのマネジメントを重視し標準化を目指すという考え方です。
―― その標準化とは、具体的にどのようなことを指すのでしょう?
属人化の排除です。特定の人しかできない、判断できない、という状態をなくして、誰がやっても同じ成果が出せる状態を目指します。そのために業務フローを作り、ルールに基づいて進めていく。ただし、ルール通りにやってもうまくいかないこともあります。その場合は、ルール自体に問題があるのか、ルールを守らなかったのかを見極めて対応します。前者ならルールを改めて、後者ならルールを徹底させる。それが私の改善の基本姿勢です。

―― 属人化の排除にあたっては、どのようなことを大切にしていますか?
誰でも再現可能な水準を大切にしています。標準化はあくまで“業務の土台”であり、そこに個人の技術的成長を妨げる意図はありません。技術スキルにたけている人は、自身のスキルをどんどん伸ばしていけばいい。この2つは、共存するものです。
―― Jストリームの組織文化や技術力については、どのように見ていますか?
技術力が非常に高いですね。インフラの9割以上を自社の社員のみで担っている点は、とても驚かされました。高い技術力は、大きな強みですね。一方で、スタートアップ的な感覚が残っていると感じており、標準化やマネジメント体制はまだ成熟途上にあります。売上が100億円を超える規模になれば、より構造的な運営が必要になると考えています。
―― 組織改革の進捗と、今後の展望について教えてください。
私が入社した頃は、「この人にしかわからない」という属人性が色濃く残っていましたが、現在はチームで支える体制にシフトできています。次の課題は、こうした変化を“定量的に示す”ことです。過去の属人状態はそもそも数値で捉えられておらず、改善の成果を証明しづらい面はありますが、システムの安定性は着実に向上していると感じています。
夢を持つことが、未来をつくる力になる
―― これからのJストリームを担う人材として、どのような人物像を思い描いていますか?
まずは、自動化や効率化の推進に力を貸してくれる人。そしてもう一つは、会社の未来を見据えながら「何をやるべきか」を考え、提案できる人です。現場を支えるだけではなく、事業そのものに関心を寄せ、組織を成長させていく視点を持っていてほしいですね。
―― 「エンジニア組織が大切にする7つの価値観」のうち、ご自身が大事にしているものは?
「探求と挑戦」です。これがなければ、学びも成長もない。そして何より“夢を描く力”にもつながってくる。社歴や年齢に関係なく、大胆な挑戦を続けること。それこそが、Jストリームの未来をつくる原動力だと思っています。
―― 社内の若手、そしてJストリームの「未来の仲間」に向けて伝えたいことはありますか?
「必ず夢を持ってほしい」ということです。突拍子もないことで構いません。私は、ようやく大好きなガンプラを作る余裕ができたここ10年ほどで、「宇宙に関わる仕事がしたい」という夢を持っています。現状、自社の事業とはまったく関係がない。でも、夢があると発想の幅が広がりますよね。当社のサービスが宇宙に応用できるとしたら?なんて考えることもあります。
夢を語りあうことが少ない組織は、やはり寂しいです。もちろん「キャンプをしたい」「街へ遊びに出かけたい」という希望もいいですが、願えばすぐ叶うことも多いです。自分の可能性を信じて、もっと先の、自分の人生を賭けるに値するような夢について考え、堂々と語ってほしいです。
私自身の反省として、30代・40代の頃は仕事漬けで、夢を描けていませんでした。だからこそ、若い人には、今のうちに“死ぬまでにやってよかった”と思える夢を持つ価値を伝えていきたいですね。
―― 夢をもつことが、仕事に意味を与えるということですね。
おっしゃる通りです。余談ですが、私はよく、手順書づくりにガンプラを引き合いに出すんですよ。「その手順書でガンプラ完成する?」「このままじゃ角が変なとこに立っちゃうよ」って(笑)。好きなことや夢をもとに考えると、実現方法がイメージしやすい。その点でも重要ですね。
―― 奥田さんご自身の今後の目標についても、教えてください。
残りのキャリアでは、自分が培ってきた経験や考え方を若い世代に継承することに全力を注ぎたいと思っています。これまで自分を育ててくれた方々への恩返しの意味も込めて、次の世代の育成に取り組んでいきたい。そしてもう一つの個人的な願いとして、誰かに誇れるようなサービスをこの手で生み出したい、という想いもあります。
―― 現状の組織構造では、ミドルマネジメント層が相対的に少ないですね。世代間ギャップに対して意識していることはありますか?
実のところ、私はあまりギャップを感じていません。あえて一つ挙げるなら、若手のExcel離れでしょうか。計算も表も自動化も、使い方次第では便利なツールなのに、どうも“古い”と感じるのか、ギャップといえばそんなところでしょうか(笑)。
―― 最後に、若手に大切にしてほしい“意思決定の軸”について教えてください。
それは「世の中に貢献できるかどうか」です。AppleがiPhoneをつくり、Googleが検索を生んだように、規模は大小にかかわらず、誰かの役に立てる仕事をしてほしい。
アイデアを事業化できるかどうかは、時の運によることもあります。私も過去、手がけた事業が、他社に先を越され悔しい想いをした経験があります。また、広告代理店時代に、とある企業が、かつて提案して一蹴した内容と似た仕様を、後に実装しているのを見て驚いたこともあります。それでもやはり、いつでも「社会をどう良くするか」を考え続けてほしい。その視点を軸に意思決定していくことが、エンジニアにも求められていると思います。
―― お話をうかがい、奥田さんと部門の皆さんが一緒に変化に挑戦している姿が目に浮かびました。今後のネットワークインフラ部門の組織力に、まずます期待しています。

※在籍年数や役職を含む記載内容は、取材当時のものです。その後、状況が変化していることがあります。
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