はじめに
2025年7月に開催されたJANOG58 Meeting in Matsuyamaにおいて、Jストリームからは、今井 宏謙と遠藤 滉大の2名がNOCスタッフとして参加しました。
JANOGのNOCは、イベント会場で利用されるWi-Fiネットワークの設計・構築・運用を担うチームです。参加者が快適にネットワークを利用できるよう、開催前から準備を進め、会期中もネットワークを支え続けます。
今回は、NOC全体リーダーを務めた今井と、サーバーチームリーダーとして参加した遠藤に、JANOG58 NOCでの活動について振り返ってもらいました。
JANOG58 NOCで担った役割
まずは、お二人がNOCの中でどのような役割を担当していたのか聞いてみました。
今井:
今回のNOCでは全体リーダーを担当しました。
JANOG NOCにはバックボーンチーム、L2/L3チーム、APチーム、サーバーチーム、ケーブルチーム、アレンジャーチームの大きく6チームがあります。
全体リーダーは各チームの状況を把握しながら、ホスト企業さんや協賛企業さんとの調整、チーム間で必要になる作業の橋渡しなどを担当しました。
技術的な意思決定をする場面もありますが、実際には自分で機器にログインして設定を行うよりも、各チームがスムーズに動けるようにすることが主な役割でした。
遠藤:
私はサーバーチームのリーダーを担当しました。
会場で利用するDNSやDHCP、監視サーバー、各種Webサービスなどを準備するチームです。
今回は社会人4名、学生6名の構成で、JANOG NOC経験者もいましたが、NOCそのものが初参加という学生が3名いました。
私自身は手を動かしてサーバーを構築することはあまり多くありませんでしたが、メンバーが動きやすい環境を作ることと、サーバー機材やチーム間の調整を行いました。
今回のテーマは「安定したネットワーク」と「技術的挑戦」の両立
今回のJANOG58では、全体としてどのような方針でネットワーク構築を進めていたのでしょうか。
今井:
今回のホスト企業はアリスタネットワークスジャパン合同会社さんでした。
ネットワーク機器ベンダーさんということもあり、ネットワークに非常に力を入れていただいていると感じると共に、NOC側としても『安定したネットワークを提供すること』を強く意識していました。
また今回はもう一つ特徴があり、例年に比べて学生の割合がかなり高く、社会人と学生が半々くらいでした。
学生のみなさんからは『これをやってみたい』『この技術を試したい』『この構成を使ってみたい』という声がたくさん上がっていました。
JANOG NOCはイベントを支える場であると同時に学びの場でもあります。だからこそ、その挑戦はできるだけ応援したい。
一方で、ネットワークが不安定になってしまっては本末転倒です。
そこで、安定したネットワークを作るための最低限のラインは経験者がしっかり押さえ、その上で学生さんや若手メンバーのチャレンジをできるだけ実現できるようにするというのも今回のテーマの一つだったと思います。
遠藤:
サーバーチームでも安定と挑戦を意識していました。
機器構成やミドルウェア選定など選択肢がたくさんあるのですが、安定を追求しすぎると実績がある無難な構成になってしまって、挑戦の幅が狭くなってしまいます。
新しいことに挑戦するとどうしても想定外や考慮漏れが発生する可能性がぬぐえません。
安定と挑戦で迷った時には、トラブルがあったときには5分以内に復旧できればよい、という基準で考えてもらいました。
いくつか挑戦しつつ、結果的には会期中のネットワーク提供はトラブルなく運用できたので、本当によかったです。
検証環境を構築した理由
今回のNOCでは、Jストリーム内に事前検証環境を構築していたそうです。
今井:
今回かなり強く思っていたのが、『本番で初めて動かす部分を減らしたい』ということでした。
実はJANOG NOCでは、毎回大規模な検証環境を作っているわけではありません。理由は単純で、事前に検証環境を作るためには本番用の機材を長期間借りる必要があるからです。
JANOG規模になると数十台単位の機材が必要になることもありますので、現実的には難しいケースも多いです。
ただ今回は安定性を高めるためにコアネットワークを1つの機器で完結させず、役割ごとに機器を分けたりと、安定性は高いが規模が大きいネットワークを作ることになったため、事前に検証できる環境を作りたい、ホットステージ期間だけで初めて構築するには、正直かなりリスクが高いと思っていました。
遠藤:
検証環境の構築は主に自分が担当しました。
自分は『検証環境はあるのが普通なんだろうな』と思っていたのですが、後から聞いたら、そこまでしっかり作るケースは意外と少なかったみたいですね。
Jストリーム内に検証用のサーバーを立てて、事前に構築手順の作成や動作確認を行いました。
また、さくらインターネット株式会社さんよりご提供頂いたさくらのクラウドも活用して、NetBoxやWikiなど会期前後で利用するシステムも準備していました。
実際に手を動かしてみるのは大事で、特に共通の環境で作業ができるため、困ったときに助け合うことができてよかったです。
サーバー構築の検証が夜遅くまでかかった日もありましたが、それも今ではいい思い出です。
今井:
結果的には本当にやってよかったと思います。
事前に動くことが分かっている状態で会場入りできたので、当日の安心感が全然違いました。
全体リーダーとして一番大変だったこと
NOC全体リーダーとして苦労したことについても聞いてみました。
今井:
技術的なところよりも、調整ですね。
JANOG NOCは本当に多くの企業さんの協力で成り立っています。今回もいろいろな企業さんからネットワーク機器や部材をお借りしていました。
NOCチームとして一番避けたいのは、『機材を借りたけど結局使いませんでした』という状態です。そのため機材の提供を打診する前に、どのチームが何をやりたいのか、どんな構成を考えているのかをある程度整理しなければいけません。
逆に検討を待ちすぎると、今度は協賛企業さんへの相談が遅れてしまう。そのバランスはかなり意識していましたね。
また、各チームが技術的な検討に集中できるように、それ以外の部分を引き受けることも多かったです。機材や物品の調達だったり、スケジュール調整だったり、チーム同士の橋渡しだったり。
各チームのミーティングにも参加して、何をやっているのかを把握しながら進めていました。
遠藤:
外から見ていると、いろいろなことを同時並行で進めていて、本当に忙しそうでした。
今井:
ただ、この経験は業務にも活きると思っています。
技術的な部分というより、プロジェクトを前に進めるための調整やコミュニケーションという意味も含め、とても良い経験になりました。
400G×2回線という大規模構成への挑戦
今回のJANOG58で特に印象に残った技術的な取り組みについても聞いてみました。
今井:
私が参加してきたJANOG NOCの中でも、今回の上流回線はかなりインパクトがありました。
これまでであれば10Gbps×2回線程度が大きい構成でしたが、今回は400Gbps回線を2本利用しました。
物理的には800Gbps相当です。
さらに今回はダークファイバー構成でした。
100Gくらいまでは比較的『刺せばリンクアップする』世界なんですが、400Gになるとそうもいきません。
光の減衰量を計算したり、アンプを利用したり、事前にかなり細かい検証が必要でした。
光に詳しいメンバーやホスト企業さんにも協力いただきながら、ほぼ専用チームのような形で検証していました。
遠藤:
かなり入念に検証していましたよね。
今井:
そうですね。
当日は想像以上に光品質が良くて、事前検証で想定していたよりも余裕のある状態でした。
ただ、その安心感を得られたのは事前検証をやっていたからこそだったと思います。
AIがDHCPを止めた
サーバーチームでは、新しい試みとしてAI活用にも挑戦していました。
遠藤:
挑戦的な取り組みとして、AIをサーバー運用の補助として活用していました。
サーバー上でAIエージェントを動作させて置き、Slack上で指示を与えると他サーバーにログインしてコマンドを実行し、その結果をまとめてSlack上で返信してくれるような仕組みです。
実行コマンドを制限するブラックリストを作るようなことまではしていませんでしたが、『設定変更をしないこと』という指示は与えており、大きな問題は起きないだろうと思っていました。
ところが、DHCPサーバーのログの調査を依頼したときに、 AIエージェントがDHCPプロセスに想定外のシグナルを送信し、結果としてサービスが停止してしまいました。
最初は何が起きたのか分からなくて、かなり焦りました。
今井:
『設定変更はしないこと』という指示一つ取っても、人間が考える意味とAIが解釈する意味は違うんだなと改めて感じましたね。
遠藤:
実は今回、人間と同じように調査できるようにするために、AIエージェントにroot権限を与えました。
もともとはroot権限は与えていませんでしたが、調査をするうえで権限不足でできないことが多かったためです。
そんなトラブルがありつつも、結果的にはプライマリとスタンバイが切り替わってくれたので、利用者影響はありませんでした。
結果的には、ホットステージ中に実施できなかった障害試験を意図せず行う形になりました(笑)。
プロンプトをしっかり作りこんだり、仕組みによって危ないコマンドは実行できないようにしたりと、人間側がちゃんと制御しなければいけない部分があると感じました。
今井:
想定外の試験でしたね(笑)。
でも結果として冗長構成はちゃんと動いていて、利用者影響もありませんでした。
最後は『結果オーライだったね』という話になりました。
コミュニティ活動だからこそ得られるもの
最後に、コミュニティ活動の価値について聞いてみました。
遠藤:
多くの企業や大学のメンバーと協力してネットワークを構築する経験ができることです。
初心者からベテランまで様々なメンバーがおり、持っているスキルセットもバラバラですが、共通して熱意がすごかったです。
普段の業務ではできないことも数多く経験できるため、学生・社会人を問わず、お互いに学び合える環境だと思います。
今井:
私はよく『ネットワーク業界はつながりの業界』と言っています。
今回の全体リーダーも、過去の活動でできたつながりがあったからこそ声を掛けていただきました。
技術的な課題に直面した際に相談できる人がいる。
新しい視点をもらえる。
同じ課題について議論できる。
そういう関係性は一朝一夕では作れません。
ネットワーク業界のコミュニティは営業活動の場ではありません。
だからこそ、技術者としてフラットにつながることができます。
そうしたつながりは個人にとっても会社にとっても大きな財産になると思っています。
おわりに
遠藤:
初参加のJANOG NOCでしたが、規模の大きさに驚きました。
それぞれの得意分野を持ち寄り、一つのネットワークを作り上げる。
その仕組みがとても印象的でした。
今井:
安定したネットワークの提供と新しい挑戦の実現。その両立を形にできたJANOG58だったと思います。
そして何より、多くの人と一緒にネットワークを作る楽しさを改めて実感できました。
今後もこうしたコミュニティ活動を通じて得た知見を、社内外へ還元していきたいと思います。
ありがとうございました。
※在籍年数や役職を含む記載内容は、取材当時のものです。その後、状況が変化していることがあります。




