【レポ―ト】IAB Workshop on IP Address Geolocation での登壇振り返り – 標準化の世界に足を踏み入れてみて

【レポ―ト】IAB Workshop on IP Address Geolocation での登壇振り返り – 標準化の世界に足を踏み入れてみて

この記事を書いた人

高見澤 信弘

エンジニアリング推進室 アーキテクト

Jストリームに新卒で入社後、ネットワークエンジニアとして自社のデータセンターや対外接続のネットワーク、大規模配信を可能にするCDN(Content Delivery Network)の設計・構築を担当。その後、テレビ番組の動画配信システム(見逃し配信システム)の構築や、世界的スポーツイベントなどの動画配信設計を手がける。現在はCDNのプロダクト企画や会社全体のネットワーク設計などを行う。主にインフラを担当している

国際会議に参加するきっかけ

 

私は、国内のVNE事業者が中心となって組織しているIPoE協議会でIPv6アドレスの地理情報(GeoIP)のデータ構築や利活用を推進する委員会の幹事をしております。今回はインターネットの標準化を行っているIETFの上位組織であるIABの主催で、地理情報を活用する上での課題や今後必要となる技術などを議論するためのワークショップが開催されたましたので参加してきました。

 

国際的な場で話す。というのは、なかなか経験できないことで「国際会議で話すぞー!」という前向きな気持ちでがんばりましたが、スピーディーな議論やネイティブな英語の質疑で相当苦労しました。。。

 

今回のレポートでは、IABって何? ということから、発表の中身や行われていた議論のポイントを中心に紹介したいと思います。

 

 

IP Address Geolocation とは

 

インターネットに接続して動画配信やSNS、メッセージングなどのサービスを利用するためには、インターネット上の住所となるIPアドレスが必要です。

 

エンドユーザーは、IPアドレスをプロバイダー(ISPやCATV事業者)や所属している会社などから割り当てられていますが、あまり意識することはないのではないでしょうか。

 

IP Address Geolocation とは、エンドユーザーに割り当てられたIPアドレスが、地理的に「どこ」にあるのかを示すデータベースです。日本では「地理情報」と表現します。

 

IPv4アドレスは数が限られているため、キャリアグレードナットなどの技術を使って、同じIPアドレスを複数のエンドユーザーが共有しているため、異なる場所にいるエンドユーザーが同じ場所にいるように判別されてしまう問題が顕著化しています。そのため、アドレス数が豊富でアドレス共有が行われていないIPv6アドレスを使った地理情報データベースの構築と利用が必要となっています。

 

当社も参画しているIPoE協議会の「IPv6地理情報共有推進委員会(以下、推進委員会)」では、国内のVNE事業者を中心として、IPv6アドレスの地理情報を収集し、データベース化して利活用を推進しています。

 

 

IAB Workshop とは

 

IABとは、「Internet Architecture Board」の略で、インターネット全体のアーキテクチャーについて議論する技術者集団です。13名で構成されます。今回はワークショップという形で、GeoIPに関する利活用の状況や課題点、今後の展望などを広く議論する会でした。IETFやIABを理解するには、JPNICが掲載している「IETFの組織構造」も参考にしていただけるといいと思います。

 

今回参加したのは「IAB Workshop on IP Address Geolocation」というワークショップで、オンラインですが3日間の発表と議論が行われました。参加者はMaxMindなどの地理情報を提供している会社、AkamaiやCloudflareなどのCDN事業者、地域レジストリなど、幅広いメンバーが参加していました。

 

議題としては地理情報の利活用についてやGPSとの連動についてなどの議論が行われてましたが、海外からの参加者はエリアマーケティングの例として「地理情報を使うことで、温かいピザが食べられる!」という話が何度か登場して、ニヤリとしてしまいました。

 

印象に残っているのは、衛星インターネットを使うユーザーの地理情報をどのように扱うか。という先進的な議論が行われていたことです。また、参加者の多くは欧米の方でアジア圏からの参加者は我々とネパールからだけ。という状況でした。

 

議論の様子。発表する筆者(写真左から2番目)と推進委員会関係者(同左上)

 

IPv6地理情報の利活用とIPv4アドレス共有の問題点

 

発表としては、日本国内でのIPv6地理情報の利活用として、エリアマーケティングやECサイト・インターネットバンキングでのフィルタリングへの活用などの事例を紹介しました。また、動画配信におけるコンテンツフィルタングとしての利用について、実証実験の話をしたり、コネクテッドTV(CTV)やセットトップボックス(STV)などのGPSを持たない端末についても地理情報を活用したサービスが提供できる点などを説明しました。

 

最後に日本でのIPv4アドレス共有の仕組みや実態について紹介し、アドレス共有の問題点として、エンドユーザーを特定するためには、IPアドレスだけでなくポート番号とアクセスする時間が必要となり、地理情報が不正確になっていることを説明しました。IPv6アドレスへの移行により、この問題へ対処することがよいのではないかとの意見を表明してきました。

 

当日は、IPv6アドレスの地理情報を用いた実証実験についても紹介

 

質疑としては、災害時の地理情報の利用やGPSを持たない機器についての応用について、新しい取り組みで興味深いという意見をいただきました。また、せっかく複数のISPがまとまってデータベースを作っているのであれば、RFC8805に準拠したデータ形式として公開するのがよいのではないか。という意見もいただきました。

 

RFC8805は、ISPやCATV事業者が自身のネットワーク内のIPアドレスと地理情報を外部に公開するためのフォーマットについて規定しています。今回のワークショップの中でも議題として挙げられており、今後地理情報を提供する上では抑えておくべき技術だと感じました。当委員会としても検討が進められていない部分だったので、有用性や公開の仕方なども含めて対応を進めていきたいと思いました。

 

 

議論を通じての感想

 

私自身、インターネットの標準化に関わってみたい。という目標があったのですが、なかなかハードルが高く、何から始めればいいの?とずっと思っていました。しかし、今回、突然の誘いでIETFに関わる国際会議で話すことができました。目標に一歩近づき嬉しい気持ちとまだまだやらなければならないことが山盛りだなと改めて感じました。


今回のワークショップでは、RFC8805の利活用について活発な議論が行われていました。またAkamaiやCloudflareなとのCDN事業者もロードバランスに利用しているという紹介もあり、活用が進んでいることがわかりました。このように技術の標準化に関する最先端の動向を肌で感じることができとても貴重な経験ができたと実感しています。

 

また、日本国内での事情や工夫を話すことも大切ですし、標準化された技術を使うことで、世界を見据えた活動を進められればと感じました。

 

 

【関連情報】

IPv6地理情報共有推進委員会
https://ipoe-c.jp/wg/IPv6/

 

IAB Workshop on IP Address Geolocation
https://datatracker.ietf.org/group/ipgeows/about/

 

IETFの組織構造

https://www.nic.ad.jp/ja/tech/ietf/section3.html

 

RFC 8805 – A Format for Self-Published IP Geolocation Feeds
https://datatracker.ietf.org/doc/html/rfc8805